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クレーム責任の所在と防止策

ビルメンテナンス情報
クレーム責任の所在と防止策

著 木村光成 先生

プール事故の結論が出た。市の責任を認めつつも、直接的原因は管理業者にあるとの結論である。しかし、おそらくこのままでは、この種の事故はなくならないであろう。
この結論を、我々現場から考察してみる。

誰もこれ等の事故が起きて良いとは考えていない。しかし、責任者がいないか、明確でない。シンドラーエレベーター事故も、いまだに責任の所在が明らかでない。
これ等の事故の共通点は、関係者全てをつなぐマニュアルが存在しないことと、下への丸投げによる責任感の無さであろう。責任さえも下請に丸投げで、責任を取らされるのは必ず現場である。そして、その現場もパートや派遣であることが多い。

ビルメンの場合は死につながる事故はほとんど無い。死につながらない事故、いわゆるクレームは殆ど記録にも残らないし、問題にもならない。
ビルメン業界では、クレーム対策のための作業マニュアルの作成は「管理会社がうるさくなり、値切りの材料に使われる」という理由で敬遠されている。品質管理もビルメンが自己申告する形であり、第三者の目で見たものではない。
一例としては、現在、床の主流になりつつあるフローリングや清掃機械の性能維持のためのマニュアルが、全く無いことからも理解できる。ビル管法に記載してある清掃機材の管理も、外見と台数だけの管理である。

少なくとも管理対象物の管理マニュアルが必要であり、それを関係者、すなわち元受から下請、現場までが共有する必要がある。そして、そのはマニュアルは、過去のデータに裏づけされたマニュアルであるべきである。
しかし、ビルメン業界ではクレームを正面から取り上げていない。クレーム分類や統計も、正式には存在しない。
数年前の石材メンテナンスマニュアル作成時にも、『クレーム』という言葉を避け、『トラブル』という言葉に修正させられた。また、クリーンクルーの作業時の注意事項である『石材用洗剤による皮膚障害防止』についても削除されている。
どこの業界でも同じであるが、クレームについては存在を、特に責任を認めたくないのが現実であろう。

プール事故の場合は、幼い人命が失われたという大事故であったために問題が大きくなったが、本来、ビルメン関連での死亡事故は少ない。ガラスなどの外装作業の転落事故が殆どである。
これ等は事故と呼ばれるが、最も多い「汚れが落ちていない」という事故は事故とは呼ばず、「クレーム」または正式には「トラブル」と呼ばれている。だが、責任の存在が明確でないのはプール事故と全く同じである。

責任の所在が見えない事例を挙げてみる。
これ等、過去のクレーム事例を分析し、ここからマニュアルを作成し、それを関係者に教育することを行わない限り、同種の事故はなくならない。
まず必要なことは、クレーム公開への、事実上の禁止の解除であろう。


ビルメン事故の責任、原因と防止を考える事例
青山にある大手総合商社の本社ビルで、高級花崗岩ダコタマホガニーが全面使用されている。
このビルの外壁で、つなぎ目シール作業が行われた。昼夜にわたりゴンドラの下は交通整理員が貼り付けられ、作業は二週間で完了した。
ところが、ゴンドラのオイルが少しずつ漏れていたため、建物の周囲と平面に無数の油染みが起きた。これが取れなくて大騒ぎになった。
アルカリ洗浄、酸洗い、フッさん処理を行っても受けつけない。あちこちの業者に当たり、吸着法が有効であることが判った。これを除去するには、吸着法と蒸発量を調節した溶剤が必要であった。

この作業には、1:ビル管理会社、2:元受会社、3:下請会社、4:孫受け会社、それに5:ゴンドラ会社も関連する。これ等の会社は、作業期間の15日中10日間以上は現場確認を行い、報告書に異常なしと記入していた。
不思議なのは、これだけのオイルが15日間ゴンドラから垂れていたのに、誰も気がつかなかったということである。しかも交通整理員は時間によっては二名で従事していたのに気づかなかったという。通行人に気をつけていたが、上は気にしていなかったとの事であるが、あまり納得は出来ない。
油圧用のオイルであるため、場合によっては人身事故にもなりかねなかった。
結果的に、ゴンドラ会社がシミ抜き費用をもったとの事で、めでたしめでたしで決着した。

この事例では、それぞれがそれぞれの受け持ちを一所懸命に従事していたが、いったい全体で何の仕事をしているのかは、誰も知らなかったということである。
このような責任者不在現象は、バブル以前には殆ど無かった。だが、バブル以後、何かが変わった。その「何か」に手をつけなければ、このようなクレームが無くならないことは確かであろう。


写真1:
大型ビル前面にしみがついている。
吸着法によるシミ抜き、蒸発時間はイソプロパノールで調整
写真2:
外壁にもオイルのしみがついている。


この事例は、社内のクレーム勉強会での良い研究材料にもなる。外壁洗浄は、弗酸系洗剤、燐酸系洗剤を多用するが、この種の事故は実際には多いが、まず表ざたにならないため「事故は0」ということになる。
これがある意味で事故が無くならない原因でもある。この場合、責任はどこにあるのだろう?
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