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ビルメン現場から見たエレベーター事故

ビルメンテナンス情報
ビルメン現場から見たエレベーター事故

著 木村光成 先生

ひとつの事故の影に数百の事故がある。
ビルメンでよく聞く言葉である。しかし、影の数百の事故を把握できなければ、事故防止の観点からは何の意味もない。
表の事故、すなわち死亡事故は、エレベーター1件、回転ドア1件に過ぎない。これ等の影にある事故を熟知しているのがビルメン現場である。しかし、これ等のデーターは全く表には出ない。現場は見ざる、言わざる、聞かざる、である。ビルメン本社には原則として流れない。本社は、特に最近は、ほとんどこれ等の余計な情報の蚊帳の外にある。

ところで、今回のシンドラー事件の原因は、時間が掛かるが、いずれ法的に明確になる。これとは別に、ビルメン現場(ビルメン本社ではない)の目から原因と防止策を考えてみる。
ビルメン現場事務所は、以前にはビルの屋上にあるエレベーター巻き上げ機の傍か、地下の浄化槽の上と決まっていた。そのため、エレベーター屋さんともよく話をした。
当時、管理はすべてメーカーが行っていたが、事故は決して少なくなかった。特に自動化によってエレベーターガール(この呼び名が良いかどうかは別として)がいなくなった時期に急増した。ただし、大きな事故は少なかった。
30年以前の出来事であるが、現場で有名な話に昭和天皇閉じ込め事件がある。上野松坂屋に昭和天皇がおいでになった時に、お乗りいただいたエレベーターが動かなくなった事件である。原因は、運転係の女性が緊張のあまり、オートとマニュアルの切り替えを間違えたのが原因であった。このエレベーターの大手メーカのある日本ビルは、上を下への大騒動であった。
このように、決してトラブルがなかったわけではない。大きな問題を起こさずに処理されてきたということである。当時と現在の大きな違いは、機械的な問題よりも、我々ビルメン現場からはメンテに携わる人の問題に見える。

当時の管理はメーカー直であった。現在は独立系管理会社が低価格で行っている。新しいエレベーターでは、数年の間に大きな部品交換をすることは少ない。そこで、メーカーより請負価格の安い管理会社が管理を受ける例が増加している。
シンドラーの管理会社の社長は、松坂屋事件の大手メーカーの出身である。大手メーカーは、これ等の独立系管理会社に対し、部品の供給を新規受注として在庫があってもすぐには渡さない。さらに十分なマニュアルを渡さないという対応をして、値下げの歯止めにしている。これに対し、公正取引委員会から何度か通告が行われている。これがひとつの大きなエレベーター事故の一原因であろう。
我々の眼から見て、最近のメンテナンス要員は、エレベーターに関する知識と技術の不足が感じられる。不十分なマニュアルと具体的技術不足、すなわち実務教育不足である。
紙の上の教育では、実際の技術は身につけられない。団塊の世代がいなくなれば、より実務技術の低下を招く。
ビルメン業界も同様の技術低下が見られる。カーぺット繊維の判別、木やビニールタイル、洗剤の成分判別、清掃機械の性能判別など、テキスト、すなわちマニュアルの不十分と、その上にこれ等技術の実務教育を行わず、紙のうえで済ませることがほとんどである。

現在の資格教育は、技術不足の資格保持者を多数作り出す危険がある。しかし、ビルメンの場合、エレベーターの管理不足やマンション偽装と異なり、人の生命にかかわる問題にはならない点が救いである。


写真:最近のエレベーターは外見が大きく変わり、床も天然石、木、竹、などが使われている。また、このような透明タイプも増えており、構造を見るのには良い。
しかし最も大切なのは安全装置、すなわちブレーキである。
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