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現場との断絶と現場研究の保存

ビルメンテナンス情報
『現場との断絶と現場研究の保存』

著 木村光成 先生

現場と本社、断絶の理由 -1-
ビルメンの全ての情報は現場にある。50年前、ビルメンの創生期に社長は営業であり、現場のクリンクルーでもあった。現場の建築素材、作業時間、汚れやすさ、使用洗剤、ワックス、全て把握していた。本社はクリンクルーの休憩室でもあった。そして本社は現場の全てを把握していた。
それから半世紀、エレベーターモーター室の横の事務所は超高層ビルに代わり、ライトバンはベンツに代わった。おりしもバブル最盛期、受注価格は言いなりであり、現場はすべて下請け任せ。ビルオーナーも品質はほとんど気にしなかった。
当時の本社要員、経理、営業は、現場経験の少ない人たちが大半を占めていた。バブル最盛期には、現場責任者やクリーンクルーは不足がちで、その上、独立も盛んであった。クリーンクルーより営業、経理のほうが充足率は高かった。
また営業が現場を知らなくとも、下請けに丸投げするので問題は起きなかった。ただし下請けから25~30%の利益は確保すること……これが営業であった。銀座などにある古いビルの1人現場なぞ、本社へは数年間行ってないという浦島太郎的事例も少なくなかった。

国立国会図書館の太平ビルサービス矢口さんは、40年間同じ現場であり、営業、提案、クレーム処理、現場作業などの、全てをこなしたよい事例であり、現場の生き字引であった。この例からも、ビルメンの技術や研究は現場でしか出来ないと云える。
これらの研究やデータは、本社からの聞き取り調査やアンケートでは入手できない。少なくともその現場に一週間、出来れば一ヶ月いなければ、その現場の技術やノウハウは入手できない。背広とネクタイの調査では、確信に触れるものは得られない。
そのひとつの例として、鉄道車両清掃の50年にわたる歴史から、眠っている研究やデータを掘り起こして記録しておきたいと考え、概略をまとめてみた。現場の先輩たちのためにも、少しでもこれらが失われないよう残しておくことが、我々の義務と考える。

鉄道車両と駅舎の清掃は、事務所ビルや今後増加するショッピングセンターの清掃に多くの資料を提供してくれる。
まず、使用頻度の点からいえば、これほど過酷な現場はない。新幹線車両のトイレの使用頻度を考えられたい。通常のビルの比でないことは、10センチの尿石の存在でも理解できる。またハウスシックについても新幹線は多くの示唆を与えてくれる。
新幹線車両清掃の原点0系。
先頭部分がこんなにきれいな車両は少ない。


現場と本社の断絶の理由 -2-
前段では、一般的ビルメンの現場離れの流れを考察してきた。
しかし、もうひとつ現場離れの形態がある。これの代表が、JRとNTTである。

NTT、すなわち電話局は明治時代より存在し、全国にビルや施設があり、現在ではコンピューター室のメンテ程度になったが、かつては電話交換機という特殊な機器を使用するために、特殊な清掃概念が存在する現場だった。明治から昭和まで電話交換機用の専用ブラシを使っていた。電話交換機は埃を嫌うという理由である。ダスキンのダストモップは、ベル電話会社の開発であり、ダスキンの開発とはいえない。
このJRとNTTの二社は、ビルメン業界の中で特異な存在とも言える。その共通点は、新幹線とITという最先端の技術を持っていることと、数多くのビルメン会社を持っていることである。鉄道整備、新幹線鉄道整備。そして電話局には、城南整備、北関東整備、など。くしくも同じ「整備」の名がついている。
そして、この二社の組織構造は、本体の組織そのものである。すなわち上意下達方式であり、本社の人たちには現場の経験が少ない人ばかり。まして清掃現場の経験は、ほとんどを見学で済ませている。

ところで、この二社の現場は、日本での大手企業の研究現場でもある。
使用条件が過酷であるということは、短い時間で結果が得られるということでもある。タイルカーぺットの耐久性テストが八重洲の改札口で行われたのも、人数の把握と耐久性が同時に測れるからだ。この二社の現場で効果があったといえば、実験の権威による裏づけも得られ、その上、大量の注文が入る可能性もある。
もちろん大手企業はデータを全部は公開しない。このような研究が実施されると、各社の研究者が集まり、激烈な情報戦が行われる。もちろんダミーの実験も取り混ぜてある。特に目立つのが環境関係の研究であり、駅舎や新幹線のトイレがよく利用される。そしてこれらの情報とデータを入手しているのが、現場責任者である。
これら二社の現場責任者の中には、かなり高度の技術を持つ退職者人材がいる。また、クリーンクルーの中にも、特に若いフリーターの中には、修士課程の修了者がいる場合もある。これらの人たちとは、波長が合えば教えを得られる。 いずれにしても、現場の研究結果は、特に上からの指示があった研究を除き、ほとんど上に流れていないのが現状である。トイレ研究のメッカであるJRのデータが、トイレ協会に全く流れていないことも、これが理由である。今の現場は「見ざる言わざる聴かざる」になっている。

このように、現場と本社の断絶が大きくなりつつある。
最近のビルメン関連協会関連の調査報告やトイレ協会セミナーでの講演者の話も、我々現場が聴くと、実際に現場で作業をしたか疑問に感じる場合が多い。調査票やアンケートを送付して、資料を集めだけと感じる事例があまりにも多い。
また、現場の人たちの現状は、セミナーや展示会、そして業界新聞や業界誌にも、ほとんど目を通す機会がない。一方、本社は、これらの出版物や販売業者のカタログだけの情報で判断する。
これらのギャップが、現場に即した改善が行われない大きな理由であろう。

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