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維持管理マニュアル改定と清掃品質

ビルメンテナンス情報
維持管理マニュアル改定と清掃品質

著 木村光成 さん

品質水準を持つことは受注価格低落の歯止め
 今回 建築物における維持管理マニュアルが改定された。このルーツは昭和48年のビル管法である。
 今回の改正の最大のポイントは、総合有害生物管理で明確な品質水準が示されたことである。これにより、明確公正な品質水準を持たないのは清掃だけになった。

 品質水準を持つことの最大のメリットは、受注価格の歯止めになるということである。
 言い換えれば、清掃だけが受注価格の歯止めを持たないということである。その現状を考えてみたい。
1: 清掃には衛生的品質基準(ものさし)がない。
1)空気、2)飲用水、3)雑用水、4)下水、5)ねずみ等
 以上については明確な品質水準がそろった。これらは全てきれいさが基準になっている。
 きれいさの基準は、目に見えるきれいさと見えないきれいさ(衛生上のきれいさ)に分けられる。そして、維持管理の5つの項目については、全て目に見えないきれいさが主な基準になっている。(一部には目に見えるものもあるが)。
 これに対して、ビルメンが現在行っている品質管理(強制力を持った、法律化されていない)では、いわゆるインスペクションだけが、目に見えるきれいさを基準にしている。
 この点がネックとなり、ビルメンインスペクションがなかなか法律化されない理由と考えられる。
 まず、ビル管法は、はじめから環境衛生を一定レベルに保つことを目的とした法律である。言いかえれば、我々の命を守るための法律である。きれいさが環境衛生の基準とすると、目に見えるきれいさより見えないきれいさのほうが危険である。
 空気も、ほこりが立ち込めたり、匂いがしたり。水も、にごっていれば、まず使用者は飲むのを躊躇する。そこで、空気も水も、目に見えない部分を基準化したわけである。 匂いがしたり、水がにごったりした場合は、すぐに文句が出る。しかし、細菌やフォルムアルデヒドは目に見えない。これが人の健康を害している。そこで、目に見えないきれいさを測定して、それを基準にしているわけである。

2: 目に見えるきれいさより目に見えないきれいさ
 清掃の例をとると、目に見えるきれいさを基準にした場合、まず使用者が気づきやすい。しかし、目に見えるきれいさの判断には個人差がある。特に個人住宅の場合は、汚れに無頓着な人や極端な潔癖症の人がいる。ビルのオーナーにしても、立地条件や使用者などの条件により、清掃の品質を上げるより、その分価格を安くする方を選ぶ場合もよくある。

左写真:新宿駅ビルの例であるが、廃棄物を利用したデザインであり、目では汚れ度合いの判断が難しい。


 極端な例では時々話題になるごみ屋敷である。
 ごみ屋敷の主の言い分は「これはごみではなく、財物である」と主張する場合が多い。最近はごみでさえ判別が難しい。個人の部屋を汚くするのは自由であるが、周囲の人々の健康を害する場合は問題であり、この場合は法による強制力が必要である。
 悪臭やハエ、蚊、ねずみなどの害が近隣に及ぶ。この場合も目に見える汚れであるが、これが冷却塔から飛散するレジオネラの場合、非常に危険であることは云うをまたない。

 このように考えると、法制化する基準には”見えないきれいさ”を考慮に入れる必要性が高くなる。
 見える汚れは認識されやすいし、手抜きもしにくい。しかし、見えない汚れは大きな環境衛生上の問題を含んでいる場合が多く、見落とされやすいし、手抜きもしやすい。
 今回の改正で話題になっているねずみ等の基準値も、長年の研究による客観的な裏づけによるものである。
 ねずみ、ゴキブリのトラップ捕捉数を基準とする明確な数値による表示は、関係者全てに受け入れやすいシステムといえる。これにより守るべき最低品質が決まり、受注価格に歯止めが掛けられる。と同時に、品質基準を持たないビルメンに、ゴキブリの基準を守れない場合の責任をぺスコンに押し付けられる可能性が出てきている(ビルクリーニング4月号)。

 ぺスコンの現状は、薬品の規制が厳しくなり、効果の高い薬品は次々に使用禁止になり、ある意味で作業全体の効率が悪くなっている。
 言い換えれば、ビルメンの協力を得なければ数値の達成が難しい場合も多いと予想される。

 ビル管法のできたころには、リンデンが使用できた。
 右の写真は初期の車両0系で、当時の新幹線でのリンデンによる燻蒸の効果には目を見張るものがあった。現在でもマラリア流行地ではBHCが使用されているのは、薬害とマラリアによる死者のバランスを考えてのことである。
 当時はほとんどの車両にビュッフェと食堂車が連結されていたため、一編成の作業で、バケツ単位の屍骸が集まる例がある。しかも小型のチャバネである。後に、大阪までの時間が短縮され、食堂車がなくなると、ゴキブリも大幅に減少した。いかに餌になるゴミの除去が効果的であるかを思い知った。
 後に都立衛生試験所で三ヶ月ダニのカウントを行った時も、清掃の大切さについて身をもって感じた。

 今回、清掃の持つ衛生的きれいさに対する重要性が、ビルメン協会からでなくペストコントロールからIPMという形で発信されたのは、なんとも皮肉な結果である。
 また、排水基準を見てもPHやBODなどの目に見えない部分が規制されている。そしてその規制を受けるのがビルメン現場である。

3: 衛生的品質基準でなければ受注価格の歯止めにならない
 ビルメン業界も『見えない汚れを処理しても意味がない』という考えを捨て、衛生的品質基準を作成するための研究を自身で行わなければ、正当な見返りやメリットが得られなくなり、協会員数も今後少なくとも増加は望めない。
 IPM 発祥の地は50年前の横浜であり、大島司郎先生の研究である。しかも、ビルメンのお膝元での研究を、ビルメン業界はこれを取り入れないで、それに続く多くの研究まで無視し、資料の廃棄まで行ってきた。
 一刻も早く目に見えないきれいさの基準を、過去の多くの研究から取り入れて、第三者に丸投げした研究でない、ビルメン自身で作成するビルメン自身にメリットのある研究成果を残す最後の機会である。
 現在のインスペクション制度に第三者保障をいれるにしても、衛生的品質基準(ものさし)が必要であり、ビルメン自身の研究に裏付けられた、すなわち研究成果が第三者保障になるような研究を自身で行うほうが、ビルメン業界のメリットは大きい。
 現在のインスペクションの問題点は、裏づけ研究がない点であり、裏づけ研究を第三者に依頼すれば、ビルメン自身の主体性というメリットがなくなる。
 現在のインスペクションは、目で見たきれいさであり、しかもビルメン側の数値である。そのため受注価格低落の歯止めにはならない。

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