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新幹線と環境衛生

ビルメンテナンス情報
『新幹線と環境衛生』

著 木村光成 先生

私どもメンテナンス関係者は、新幹線から大きな恩恵を受けています。新幹線車両は我々の先生と言っても過言ではないでしょう。
昔の車両は窓が開きました。新幹線では窓は開けられません。最近の高層ビルも同じです。この点、鉄道車両はビルと同じ進歩をしてきました。ところがビルは走りません。そして事務所ビルとは比較にならない密度で乗客が座ります。そして終着駅からすぐに折り返してきます。
窓ガラスを考えてみても、毎日時速200キロの風が吹きつける窓ガラスなど鉄道車両以外にはありません。カーぺットの耐久性についても、東京駅の改札口で行われた100万人歩行テストのデーターが、カーぺットの保障期間の根拠に使われました。
鉄道車両や駅施設は、過酷な使い方をされているビルといえます。このように過酷な使用法をされる場所は、普通のビルにはありません。ビルでは何年もかかるデータが、驚くほど短い期間に得られます。ですから新幹線や駅施設は、あらゆるメーカーのテスト場なのです。

以前の国鉄車両は主に黒と茶系でした。湘南電車の緑とオレンジの色使いが驚かれたくらいです。形も角型といってよいくらいでした。ですから車両の洗浄も、自動車と同じような車両洗浄機を通過するだけで、かなりきれいになりました。
それが新幹線では、車両の形も、色も、内装素材も大きく変わりました。昔、カーペットが敷かれていたのは皇室の御召列車ぐらいでした。しかし、今では当たり前です。
新幹線車内では、メーカーが開発した多くのテストカーペットが使用されました。外見は同じカーペットでも、繊維が全く違う製品が何種類も試されました。繊維メーカーが研究しているのです。そして洗剤研究も、たびたび便乗して行われていました。

このように、新幹線や鉄道関連施設での研究やデータが、ビルメンテナンス用品や家庭用製品に反映しているということを、ぜひ知っておいていただきたいのです。
現在ビルで問題になっている室内環境衛生も、10年前から研究されていました。新幹線では、車内環境衛生ということになります。これもビルと比較にならない難しさがあります。
たとえば、狭い部屋ほど温度調整が大変になります。しかも、満員の時と空いてる時の、温度、湿度を調整するのは、ビルよりはるかに難しいはずです。

乾燥に強いカビが新幹線にいる
まだビルメンテナンス業界でも知られていない研究が行われている例をあげてみます。
室内に生えるカビは、湿度の高い場所が多いと思われがちです。ところが、好乾性カビ類と呼ばれるサボテンのようなカビがいます。この種類は、居間や寝室などに多く発生し、目立ちません。
今後、この好乾性カビ類による、健康への影響が考えられます。


左、2種類の培基の設置                          右、好乾性カビ類

写真は《こだま》で行ったカビの採取実験で、好乾性カビ類と好湿性カビ類、それぞれ容器に落下するカビ胞子を集めます。容器の高さは乗客の口の辺りでありことにご注意ください。これはカビ胞子が呼吸器に吸い込まれることを想定しています。

カビといえばカビキラーを思いだされるでしょう。これが最も使用されるのは浴室です。では、なせ浴室にカビが多いのでしょう。それは湿度が高いからです。そして、浴室の内装は白色が多いので、カビが目立ち易いのです。
ところが、居間や寝室に生息する好乾性カビ類は、成長が遅く、ほとんど目につきません。カーぺットの内部やゴミの中に、ひっそり生息しています。家具の隙間や、埃の中にです。
居間や寝室は風呂場と違う。あんなに湿度が高くない。と、お考えでしょう。確かに乾燥に強い好乾性カビ類でも、カラカラの中では生きられません。ところが埃の内部はかなり湿度が高いのです。床から水分が上がってくるところもあります。
言い換えると、部屋の中には、湿度の高いところや温度の高いところなどが分布しているのです。部屋の中に、砂漠や熱帯雨林や温帯や寒帯があるのです。これを「室内の微気象」と呼んでいます。
空気の動いていない部屋はありません。人がいないから空気が動かないということもありません。室内には、必ず暖かい場所と冷たい場所があります。
空気中に含まれる埃、ハウスダストやカビ胞子は、空気の流れによって運ばれ、ある部分にたまります。そして、その場所の温度や湿度に適したカビが増殖します。栄養分は室内に豊富にあります。菓子類の細かい破片などは、湿度さえあればカビの培基そのものです。その上、好乾性カビ類は、ダニと強い関係があるのです。

私たちの健康に関係するのは、一番問題になる浴室のカビよりも、むしろ目に付かない居間や寝室の好乾性カビ類なのです。
私たちが浴室にいるのはせいぜい1時間です。居間や寝室にいる時間の方がはるかに長いため、カビの胞子を吸い込む時間も長く、量的にも多いのです。それがカビに対するアレルギー患者が多い理由です。
このように考えると、新幹線の中にいる時間も入浴時間より長いのです。また花粉症の原因である花粉も、新幹線の中にあります。人の体に付着して持ち込まれるのです。新幹線と山手線車両の花粉量を、いつか調べてみたいと考えています。

そしてこれらの害を防ぐのは清掃しかありません。
以前は目に見える汚れが清掃の対象で、目に見えない汚れは消毒の分野でした。しかし、消毒は細菌に対しては有効ですが、カビ胞子や花粉に対しては無力です。
物より健康の重要性が認められ、目に見えない汚れも清掃が基本的な対策であるということが認識され始めています。この点をメンテナンス業者は気づいていません。
私たちはハウスシックやアトピー対策に携わっているのです。

 左は一時期実施されていた個室の清掃です。
ビルと異なり、アネモの噴出し量が違います。天井の全面が黒くなるという問題が起きたのです。洗剤をつけたタオルで拭くと、汚れが付着してしみこむ一種の布壁なのです。そこで、天井用のリンサーを試作して水を吹き付ける方法をとりました。
 窓際の壁面にウールの布壁が使用されたため、アルカリ洗剤がつかえませんでした。
カーぺットもグリーン車から導入されましたが、ビルと異なりタイルカーぺットはあまりみかけませんでした。
 タイルカーぺットの使用例です。これらの事例は、ほんの一部に過ぎません。
鉄道車両の清掃は、洗剤やワックスの研究だけでなく、カビや花粉などの環境衛生の研究の場でした。

このように、大井、尾久、蒲田、大船、など場所によっても、清掃について教えてくれるものはそれぞれ違うのです。


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