低濃度弗酸による皮膚障害について
ビルメンテナンス情報
低濃度弗酸による皮膚障害について 皮膚科からの情報
著 木村光成 さん
最近、ビルメン業界の現場で、手あれや皮膚障害が増えている。
ハウスクリーニングの換気扇やレジンフード、外壁の鉄さびなど、頑固な汚れを簡単に落とすためには、強力な洗剤を使用する。特に、下請けや孫受けでは、使用せざるを得ない場合が増えており、それが皮膚障害につながると考えられる。
しかし、これらについて、ビルメンメンテナンスのひやりはっとなど、労災関係のコラムでは過去50年間1度も取り挙げられたことはなく、ほとんどが、骨折、捻挫などの外科的症状である。
ビルメン業界では、皮膚障害は労災保険料負担が増えるため、労災とは認めたくないということであり、建前上、ビルメン業界に皮膚障害は存在しないことになっている。
しかし、潜在的な皮膚障害アトピーまで含めると、かなりの発生があるという実感はある。
たとえば、カーぺットクリーニング後の家庭で、家族全員に足の腫れなどの障害が起きた例が、国民生活センターで報じられたこともある。まして、作業を行うクリンクルー全員が皮膚障害に強いとも考えられない。
このような時に、ビル新聞に以前掲載した記事に問い合わせがあった。大阪の皮膚科の石名航先生からである〔 石切生喜病院皮膚科(〒579‐8026 大阪府東大阪市弥生町18番28号) 〕。
『タイル洗浄作業で生じた低濃度フッ化水素酸による化学熱傷について』という題で、学会発表されるということである。
要旨は、最近、低濃度の弗酸による皮膚障害が増加しているということと、その症例および治療について述べられており、ビル新聞の記事を見て、問いあわせをいただいたということであった。
この事は、現場ではかなりの皮膚障害が存在していることの裏付けにもなる。
これが表面化しない理由は、これらの作業を行うのは、孫受け以下のビルメン現場であることが原因である。ビルメン業界では、受注価格切り下げによるしわ寄せが、現場に押し寄せている。安く、早く、きれいにすることが要求されている。
皮膚障害の原因となるような強力な薬剤を、単純に禁止しても解決にはならない。なぜならば、ますますこれらの洗剤が必要とされているからである。禁止通達を出しても、潜在化するだけである。
それよりも、危険な洗剤を安全に使うのがプロであり、これらの薬品の基本性質や危険性などを、実験と平行して教育する必要がある。と、共に、表示の明確化、使用法や安全対策。石材、セラミック、ガラスなど、素材の種類と現場判別法、クレーム事例などの情報を現場に流すことが最も必要である。
現にこれらの薬品は、よく落ちて販売業者の利幅も厚い。その上、ジョンソン、リンレイなど、大手は手を出さない。そこで『中性だから安全』『食品用に使用されている』『自然の原料を使用』などと危険性を低く証言した表示が多くなっている。これは明らかに危険性の潜在化である。
自然物だから安全とはいえない。例えば、柑橘類から採れるリモネンに反応するクリーンクルーも存在する。
このままでは、クリンクルーにアトピーが増えるだけである。犠牲になるのは下請けの現場のみであり、協会は雲の上で見ないふりをしている。
石名先生の発表がきっかけになり、行政やビルメン協会がこの問題に取り組んでもらえれば……と考えている。
アトピーや低濃度弗酸のように、目に見えにくい傷害のほうが、目に見える骨折や捻挫などの外傷よりも恐ろしい。また、最先端のクリーンクルーは、テロ、鳥インフルエンザやノロウイルスなどの感染症といった危険もある。
受注価格の低落を理由にして、最近は現場の安全や福祉があまりにもなおざりである。
写真:
弗酸系の洗剤は効果絶大であることはこの写真でも良くわかる。単純な禁止では問題解決にならない。
このような皮膚障害についての専門家は少なく、事故の場合は相談されたい。