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セメントテラゾーと自動床洗浄機

ビルメンテナンス情報
『セメントテラゾーと自動床洗浄機』

著 木村光成 先生

自動床洗浄機がメンテナンスで重要な役目を占めるようになっています。その定着には、車輌整備協会の技術的背景が大きく貢献しています。
言い換えれば、旧国鉄の技術がなければ、ビルメン業界に自動床洗浄機が普及したかどうか疑問です。この点、自動床洗浄機を扱う業者も、間接的恩恵を受けているわけです。
この事実を整備会社も意外と認識していませんし、歴史の彼方に消えつつあります。
そこで、私たちが見てきた駅舎の清掃の歴史を振り替えって見ましょう。

もともと駅舎やホームの清掃は、主に駅員の方々が行っていたゴミ拾いと掃き清掃でした。
今でもちりとりの形態に「鉄ちり」の名前が残っていますが、最近のクリーンクルーに「鉄ちり」の意味を聞いても、鍋料理の一種としか考えないのが現状です。この場合の「鉄ちり」とは「鉄道型ちり取り」の意味なのです。
整備会社がビルや駅舎の清掃に本格的に取り組みだしたのは、丸の内口の国鉄本社ビルの清掃からでしょう。それまでは整備の文字通り、車輌の洗浄が主力でした。この事実は客車ブラシという名前に残っています。これらの技術もメンテナンス、特に洗剤の歴史にかなりの影響を与えています。
それはともかく1950年代はオガクズ清掃が東京駅周辺では主に行われていました。その理由がセメントテラゾーなのです。

 写真は牡丹と呼ばれるセメントテラゾーです。
国産の大理石は一部の種類を除き、ほとんど取れなくなっています。セメントテラゾーは、セメントと大理石の破片を混ぜて国産大理石に似せたものです。
当時のセメントテラゾーは現場研ぎ出しテラゾー(現テラ)と呼ばれ、現在ほとんど用いられない施工法が行われていました。メンテナンスの面で非常に良い点は、表面が平滑で管理が楽ということです。現場で研磨したのですから平らなのは当然です。

当時、大理石は大変高級な床材でした。天然大理石は、水、洗剤、ワックスの使用は禁止で、乾拭きが原則でした。セメントテラゾーは石材メーカーがテラゾーを石とは認めなかったため、洗剤、ワックスの使用が認められました。それでも洗剤の使用を最小限に抑える掃除方法として、オガクズ清掃が指定されていました。丸の内のビルや東京駅、八重洲口の大丸などでも、オガ清掃が広く行われていたのです。
つまりホスト社のパウダークリーニングが輸入されるよりも前にパウダークリーニングが行われていたわけで、パウダークリーニングはアメリカの発明ではなく、車輌整備協会が以前から使用していたのです。

オガ清掃は大阪万博時代まで行われていました。オガクズに洗剤をしみこませてポリッシャーで洗い、オガ押しブラシで集めるオガ洗いと、箒やブラシで床面のオガクズを掃くと同時に軽い汚れを取り去るオガ掃きの2つの技法は、かなりの職人芸がありました。初めの頃は桐のおがくずを使用していましたが、後ではラワンに変わりました。
今では、当時のセメントテラゾーは東京駅からは姿を消しつつあります。日本ビルや上野駅に残っています。

 やがて洗剤とワックスが登場し、自動床洗浄機の使用が始まります。自動床洗浄機の歴史は、我が国では意外に古いのです。国産製品もかなり古くから作られていました。
写真は1960年代の国産自動床洗浄機です。現在輸入機が多い中で、この型の機種は、今でも山手線のある駅舎で使用されています。
当時としては非常によく設計された機械です。現在の輸入機械の中には、設計上かなり手抜きのある機械が多いのですが、この国産機は全く手抜きされていませんでした。
今でもビルメンの試験に50年前の機種の分解図が出ているのですが、これを半世紀前の国産機種だと知る人はありません。

当時輸入されたアドバンスやクラークなどの自動床洗浄機を使用したビルでは、結局、これらの機械の使用は定着しませんでした。ところが駅舎では定着使用できたのです。その大きな理由が、テラゾーと自動床洗浄機の管理技術でした。
自動床洗浄機の使用上のポイントは、バッテリー管理です。
整備会社の現場の人たちは鉄道現場出身の方が多く、バッテリーの管理技術を完全に身につけていたのです。当時、上野駅のホームなどで、長い荷物運搬車を鮮やかに扱っているのを目撃した方もいらっしゃるはずです。こういった点が、他のビルメン会社と大きな違いだったのです。

 以前、尾久の電車区でバッテリーの管理状態を見て、その技術の高さに驚いた記憶があります。バッテリー管理が出来なければ、性能は低下し、挙句の果ては動かなくなります。バッテリー液の比重管理や充電時間など、ポリッシャーなどと比べれば管理の難しさは比べ物になりません。
当時の輸入自動床洗浄機には酷いものが多くありました。充電器が外国の120V仕様なのに、100V用の表示がされている機械まであったのです。それを昇圧して使用するなど、通常のビルメン会社で出来るはずがありません。
また、鉄道の現場では、現在ビルメン協会がセミナーで行っている性能管理より、はるかに進んだ性能管理が行われていました。今、ようやくビルメン業界の一部で行われるようになった自動床洗浄機吸引力測定(右写真)も、鉄道の現場では既に行われていました。
それだけではありません。床材の種類による吸引力の違い(床に凹凸のある場合、吸引力は落ちる)まで測定して、床の種類別による運用方法まで研究されていました。この数値を現場実測吸引力と呼んでいます。

ここで自動床洗浄機が定着するための、もうひとつの要素、セメントテラゾーが登場してきます。
50年前、大部分の駅舎はコンクリートの打ちっぱなしでしたが、上野、東京、大阪などではセメントテラゾーが使用されていました。
この床材が自動床洗浄機にとって最適だったのです。凹凸が全くなく、平滑で、均一な性質ですので、パットやブラシ使用時にも効率が良いのです。その上、ワックスの使用も可能でした。
平滑なテラゾー床と優れたバッテリー管理能力を持っていたことが、駅舎で自動床洗浄機を使いこなせた最大の理由なのです。

セメントテラゾーの後に登場したのがレジンテラゾーでした。
セメントテラゾーと比べ、レジンテラゾーはデザイン面から色も華やかで装飾性も高く、駅舎に隣接する駅ビルや地下街に広く採用されました。大理石のおおきな断片をポリエステル樹脂で固めたものをマクロチップレジンテラゾーといいます。



東京駅には150種を越える石材が使用されています。
しかし、この駅の石材の価値は、種類が多いだけではありません。これだけ過酷な使用をされる現場は、通常のビルではありえません。ここでは、あらゆるクレームの前兆現象が見られます。メンテナンス資材業者にとっては、石材メンテナンスの教科書といえます。
これらを研究用にまとめたものが東京駅の石材100例です。

 このなかで大変面白い例があります。石材に静電気がおきる例です。
八重洲口のレジンテラゾーは、通常は大理石のところを花崗岩が入れられたレジンテラゾーで、冬になると静電気が発生します。このため、レシートの紙などがピッタリ石に貼り付いて、作業がやりにくいという事態が発生します。石の下に砂を敷く乾式施工で、下の砂が乾燥している場合に起きる珍しい現象です。
右の写真は、八重洲北口の花崗岩系ミクロチップレジンテラゾーに、ワタボコリが吸い付いている状態です。


自動床洗浄機は、今後ますます広く使われます。その理由はバリアフリーの普及と、バッテリーの高性能化です。バッテリーの高性能化は、自動車業界が牽引役になり、急激な進化が予想されています。これに対し、プロパンエンジンやガソリンエンジンの使用は出来なくなる傾向にあります。

 今後の要求は、自動床洗浄機の安全使用法マニュアルです。
表ざたになっていない、自動床洗浄機の階段転落、横転事故、歩行者との接触などの、事故防止のための使用ルールと、現在行われていない、自動床洗浄機の吸引力、風量、汚水回収率など、正確な性能数値のカタログ表示です。
これらの研究のイニシアチブを、協会様にお取りいただけたらと考えております。

 左:通過列車がある場合ホームの洗浄には注意が必要。

 

 

 

 

 

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